ちむどんどん

２０周年目の結婚記念日に一泊二日のプチ夫婦旅行を夫がプレゼントしてくれました。



２０年目の結婚記念日にどんなプレゼントにしようかと悩んでいた夫のメールボックスに、ある日Grouponというクーポンメールが入っていたらしく、それが偶然にそのホテルのクーポンだったんですって。
夫は「決まり。ここに行こう」と思ったらしいです。

ホテルから遠くない所に、シアトルの中国人の間で非常に美味しいと評判の数少ない台湾料理のレストランFacing East（東来食府）があります。私達はまだ行った事なかったので、そこへ行くのを楽しみにしていました。
ランチタイムには間に合いそうになかったので、ディナーにしようということになりました。

ホテルにチェックインを済ませ荷物を置いて、それから時間つぶしにあちこちドライブしてからレストランへ向かいました。
レストランは外から見るとこじんまりとした雰囲気です。
でもその小さなレストランは、外からでも直ぐ判るくらいお客さんで一杯でした。



５分程待たされてやっと空いたテーブルに案内されました。左隣が若者三人、右隣にご夫婦がいました。
周りのお客さんがさっさと注文し美味しそうに食べている中、メニューを見てもさっぱり判らない私達はなかなか決められません。
夫は若者三人が美味しそうに食べている料理を指差して「すみません、それは何なの？」「あれは何？」と聞いては同じものを注文していました。
若者三人も自分達のテーブルに料理が運ばれて来ると、「これは台湾レタスの炒め物ですよ」と聞く前に教えてくれたりして、すごく和んだ雰囲気になりました。



やっと私達のテーブルにも料理が運ばれ舌鼓を打っていると、今度は右隣のご夫婦が食べている料理が気になり始めました。
そこでまた夫は「すみません、それは何ですか？」と話しかけ始めました。
ご夫婦はいろいろ詳しく教えてくれて、そのうち台湾出身で今はカナダのバンクーバーに住んでいることが判りました。
お父さんに連れられて１０歳の時に台湾に行った事がある夫は、その時の思い出話をし始めました。
夫は料理の名前も知らないのですが、そのときに食べた玉子料理が今でも脳裏にしっかり焼き付いているらしく、その話を非常に懐かしがりながら話していました。
ご夫婦は夫がなんの事を話しているのか理解できた様な雰囲気でした。
そのレストランの雰囲気のせいなのか、見ず知らずの人と気楽におしゃべりができるそんな楽しいひと時でした。

するとウェイターが私達のテーブルに料理を運んできました。
「それ私達のじゃないですよ。オーダーしてませんよそれ」と私達が言うと、「これはお隣のご夫婦からです」とウェイター。
なんとそれは夫の思い出の玉子料理だったのです。



そのレストランのメニューにないものを、そのご夫婦が特別にお願いしてくれたのです。
私達は驚きと感激のあまり言葉が出ません。
「結婚記念日、おめでとうございます。どうぞその料理を楽しんで下さいね」とそのご夫婦は、その料理の名前を中国語で書いて渡してくれました。

夫は一切れゆっくりと口に入れました。
「この料理は数年前に他界した父の好物だったのです」と言う夫の声は涙を堪えている声でした。「夫の夢を叶えて下さって本当にありがとうございます」
何気なく差し入れしたその玉子料理にそんな意味があった事を知ったご夫婦は胸が一杯になり、目に涙を溜めていらっしゃいました。

二つのテーブルが何とも言えないオーラに包まれた瞬間でした。
言葉が出ないんです。
一分程だったと思いますが、私達四人は無言で何かを確かに共有しました。
お義父さんが天国から私達を見下ろして微笑んでいる様な、そんな感じもしました。

なんという偶然でしょう。
偶然に届いたホテルのクーポン。
ホテルの近くの台湾レストラン。
ランチではなく、ディナーに変更になったこと。
たまたま空いた席の隣にカナダから旅行で来ていた台湾出身のご夫婦。
３５年も忘れられなかった玉子料理が現実になる。

偶然と偶然が見事にリンクして、想像も出来なかった事が現実になったのです。

お腹が一杯になっただけではなく、心も一杯になった素晴らしい日となりました。